ティードリオス ~わが君にこの愛を~
閑話休題――王女の陰謀、王子の純情
 フェルキンドの歴史は、約1500年前に遡る。

 以前は、ファイクリッドという国があった。しかし、その国は、当時の大国オーヴェルトに滅ぼされた。代わりに生まれたのが、フェルキンド・オーヴェルト公国。その名の通り、オーヴェルトの属国である。オーヴェルトが、占領という不満を煽る行為を避ける為に作った、傀儡の国。同じく傀儡の王、リュシオス王の下に作られたその国は、今から約200年前、最後の王家の杖の喪失と引き換えに、オーヴェルトより独立した。

 その国の名は、新生フェルキンド王国。独立は叶っても、嘗ての王国――ファイクリッドの名は戻らなかった。唯一、王家がその名を引き継ぐのみで。

 フェルキンドの王族は、時折自らを、ファイクリッド王族と呼ぶ。嘗ての名を欲してか、嘗ての栄光を顧みてか、嘗ての屈辱を忘れるためか――それは、はっきりとはされていない。


◇◆◇◆◇


< 43 / 71 >

この作品をシェア

pagetop