ティードリオス ~わが君にこの愛を~
 ――思い切りがいい。

 再び敬礼した彼女に、そう感じながら、ティードリオスは彼女をコックピットに座らせた。すぐに声紋と網膜を登録させ、使用言語を切り替える。

「共通語で動く筈だ」
 言い残し、彼女が乗っていたデューレックに乗り込む。被弾なし。オールグリーン。
「オー・ディ……」
 言いかけ、神聖語でなくてもいいと気づき、言い直す。
「デューレック、起動」

 第七期――量産型では最強でフェルキンドの主力――のレックの中でも最上級のデューレックである。第八期のハルトに比べると劣るが、悪くはない。

 ややあって、
『殿下。敵影三。デューレックです』
 スペックの高いラインハルトの方が、先に捉えたようだ。ティードリオスが王太子の提案を拒んだ時点で敵軍として登録されており、もはや嘗ての友軍への識別信号も通信回線存在しない。演習でしか経験がなかったが、味方であったヴィーセンタが敵となった。

 三機とは言え、デューレック。王族の親衛隊クラスだ。油断はできない。

「切り抜けるぞ。姉上と合流する」
『イレ・ルーヴュ・テオ』
 青い機体と紫の機体が、森の中に消えた。迷彩状態に入り、目視でもレーダーでも認識できなくなったのである。



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