ティードリオス ~わが君にこの愛を~
「……こ、洸流……」
「はい?」

 姉にお膳立てされるままに王城の前庭にいた。計らいなのか、他に人影はない。普段なら、割と多くの人がいるのだが。

 彼女に、ちらりと目をやる。
 見覚えのある姉のドレス。淡い黄のそれは、よく似合っていた。栗色の髪も、今は軽くカールし、春の風に踊っている。

 ――綺麗だ。

 そう言いたかったが、言葉が出ない。代わりに、
「よくサイズが合ったな……」

「丈は合わせていただいたんですが……胸がガバガバです」
 苦笑交じりに彼女が言った言葉が裏目に出たのか、また視線を逸らすティードリオス。

「ミルドレイン殿下は、美人でスタイルも良くて……羨ましいです」
 ティードリオスは、王族の服装ではなかった。洒落てはいるが、私服だ。……まあ、洸流のも私服と分類されるのだが。ただ、ロケットだけはそのままだ。

 風がまた吹き、ティードリオスの髪と洸流の髪、そしてドレスの裾が流れた。

 王城の壁を背景に、丁寧に刈り取られた芝生と、植えられた樹木、そして、石畳で舗装された道。春の陽射しと、鳥の囀る声の中、ティードリオスは意を決して口を開いた。

「洸流……訊きたいことがある」
「……何でしょう?」

 ずっと、訊きたかった。しかし出せなかった問い。

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