ティードリオス ~わが君にこの愛を~
「……くっ……!」
 黒い塊が、霧散する。

 王城の地下、広い空間。嘗ては第九期ヴィーセンタ専用の演習場だった。開発が一段落した今では、第九期弐号機の基礎理論が完成するまで、用途のない空間となっていた。

 息を切らせ、膝をつく。
「ティオ!」

「洸流……まだ近づくな」
 呼吸を荒げながら、言う。再び立ち上がって、意識を集中させた。

 衣服の裾が、束ねた黒髪の先が、生じた風圧に靡く。

 また、黒い空間が生まれた。だが、彼の手の先には歪みが生じるだけで、具体的な形は浮かばない。やがて、空間も消失した。

 ――思うようには、いかない。

「ティオ!」
 今度こそ駆け寄ってくる婚約者の声を聞きながら、彼の意識は闇に堕ちた。



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