ティードリオス ~わが君にこの愛を~
「皆……死んでしまった。私のせいで」

 以前見た、腕の銃創。また、それ見つめながら、
「私は、姉上の弱点だった。当時の私は弱く……それでいて、それを自覚していなかった。……まあ、今も強いかと問われれば、答えに窮するが。

 私を、姉上への見せしめに処刑しようとしたテロリストがいてな。彼らは、私をおびき出すために、嘗てのクラスメートを殺した。私は、助けられると思って向かったが……結局、皆を無駄死にさせた上に、自分の命も落とすところだった。……リリアが助けてくれなければ、私は死んでいた。

 説教されたよ。責務から逃げるな、と。

 私は……リリアの夫に、瓜二つらしい。だから彼女が私を助けてくれたのか、それは分からない。だが、彼女の夫は……リュシオス王。名前は聞いたことがあるか? あの売国奴のリュシオス王だ。きっと、王族としての自分を受け入れない私に、危機感を覚えたのだろうな。彼が、どのように誤ったかを教えてくれた。

 今となっては、彼の轍を踏むなと、そう言われた様な気がする。それから、彼女は去り――私が、王族としての自分を受け入れるようになったわけだ」

 パチンと音を立てて、ロケットを閉じる。
「約束する。これは、もう少し私が成長したら、必ず手放す。
 ……それまで、待ってくれないか?」

「……分かった」
 洸流は、ロケットを握る彼の手に、自分の手を重ねた。




 四月が終わり、五月が過ぎ――六月、ティードリオスの誕生日が訪れ、彼は洸流と同い年になった。……八月になれば、また年が開くのだが。そして、七月。
 全ては順調に進み、滞りなく二五日――俗に、「英断の日」と呼ばれる、命日が訪れた。



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