ティードリオス ~わが君にこの愛を~
 一方、少年の方は、それをものともしない様子で、
「できないよ。お姉ちゃんには」
 言って、手を軽く振る。第九期の磁場が、消滅した。浅瀬に浮く、人影。

 潮風に煽られ、身長ほどある栗色の髪が靡いた。幼い体躯を、黒を基調とした服装に包んでいる。マントが、風に揺れた。

 琥珀色の瞳で、姉を見つめ、
「ボク、お姉ちゃん、大好きだよ。お姉ちゃんも、でしょ?」
 無邪気に、言う。

「悠夾……お願いだから、言うことを聞いて」
「ダ~メ」
 言うなり、彼はまた手を振った。悲鳴が上がる。

『洸流!』
 上空に浮いていた、ラインハルトのコックピットが開く。

「貴様、洸流に手を出すな!」

「大丈夫だよ。ちょっと思考力を奪っただけ。
 だって、あのヴィーセンタは厄介だから。
 ところで、お兄ちゃん。撃って来ないの? わざわざ出てくるって、どういう判断?」

「……お前には、ラインハルトの攻撃は通用しない」

「へ~え。分かってるんだ」
 小馬鹿にしたように、言う悠夾。一方、ティードリオスは動じず、

「いくつか、はっきりさせたいことがある」
 冷静に、言い放った。
「お前の目的は何だ?」

「……知ってるんじゃない? ボクが、今日お城に行くのも分かってたみたいだし。
 言ってごらんよ。どこまで合ってるか教えてあげる」

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