ティードリオス ~わが君にこの愛を~
「そうか……あの女か……。
 成る程、それで杖のことを知っているんだね。生まれる前に死んだボクが、生きていることにも納得したわけだ」

「……知り合いか?」
「直接は知らないよ。ただ、ボクたちみたいにハザマで生きる人間は珍しいから」
「ハザマ?」
「知らなくていいよ。お兄ちゃんは」

 言い、悠夾が翳した手の先に、黒いワンズが浮かぶ。

「死んで。お兄ちゃんを殺して、この国を滅ぼして、ボクはお姉ちゃんとハザマで生きる」

「……やはり、そういうことか。
 お前の……洸流の両親は、王家と、この国の為に死んだ。お前自身も、だ。
 命を奪った、フェルキンドが気に入らないということか。
 そして、因縁の日に、お前の大好きな姉が私と結ばれる。さぞや、腹が立っただろう」

「うるさい!」
 力が、発する。

 一見、それはティードリオスに収束するかに見えた。だが、霧散する。

「――?」
「強き杖は他の杖を呼び起こし、強き杖の崩壊は他の杖を滅ぼす」

 浮上しているラインハルトの前に発生した力。それを操りながら、ティードリオスは言葉を紡ぐ。
「知らないのか?」

 彼の手元に、白に金の装飾のワンズが浮かんでいた。

 今度こそ、余裕を無くした表情で、悠夾は、
「リーリアントの杖に触発された、ってとこ? ……ふん」
 より、力を収束させながら、叫ぶ。

「だから、何だ ボクの杖はお前程度のものじゃない! お前の杖は、弱くて、未熟だ!
 本気を出せば――」

 と、音が響く。

< 68 / 71 >

この作品をシェア

pagetop