君の瞳に映る色
「好きになって結婚しようと
思った相手がたまたま
人間じゃなかったってだけかな」

臆することなく俊は
はっきりと言った。
義兄の言葉に恥ずかしくなって
玲は頭を掻いた。

棗はぼんやりとその言葉を
噛み締めていた。
そういう結婚もあるのだと。
結婚は家のためにするものだと
ずっと思って生きてきた。

静かになった部屋に
布団の動く音がした。

ベッドの上に絢が起き上がって
じっと俊を見つめている。

「帰る?」と静かに俊が聞いた。
無言で絢は頷く。

ふっと笑いをもらすと俊は
立ち上がって、邪魔したね、と
言った。
玲も立ち上がって一緒に
玄関の方へ向かう。

絢もゆっくりとした動きで
立ち上がりその後を追った。
あ、と後ろからついて来た棗を
振り返る。

「プリン買ってきたんだった。
後で玲と食べて?」

機嫌は直ったのか棗に
清々しい笑顔を向けてきた。
軽い足取りで絢は玄関で待つ
俊の隣に立った。

「またね、玲、棗ちゃん」

何事もなかったかのように絢は
手をヒラヒラ振って出て行った。





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