君の瞳に映る色
「…心を読む力が役立つのは
ビジネスくらいだな」

「言葉を交わすことが、相手を
理解する為の一番の方法ですよ」

諭すような柊の言葉に
暁生は笑顔を見せた。


会長の地位にある自分に
同じ目線で話しかけてくる者は
柊くらいしかいない。

信頼できる部下であり、大切な
友人を暁生は無言で見つめた。


心を読む力は、若い頃の暁生に
自信と優越感を与えた。
発想力さえあれば判断力は
必要ない。
おもしろいくらいビジネスは
自分の思い通りに動いた。

自分を中心に世界が
回っているとすら思っていた時、
妻が死んだ。

突然の訃報に俄かにその事実を
信じることはできなかった。
最後に妻に会ったのは
いつだっただろう。

冷たくなった妻を前に、何年か
前から病を患っていたことを聞き
さらに驚かされた。

まったく気付かなかった。

自分には全て読めるはずなのに
どこで読み違えたのだろうか。

妻の傍らに大人しく座っていた
菖蒲は、まるで他人を見るような
目つきで自分を眺めていた。







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