君の瞳に映る色
目的の本を見つけて
棗は手を伸ばした。

上段の棚は棗の背でギリギリ
届くくらいの高い位置にあった。

高い棚の本に棗は必死で
指を伸ばしていた。
目的の本は隙間なく棚に
収まっていてなかなか取れない。

「どれ?」

声とともに長い手がすっと
横を伸びる。
細く長いしなやかな指が棗の
指に軽く触れた。

落ち着いていた心臓がまた
早く鳴り出す。

いつの間にこんなに近くに
いたんだろうか。
玲の身体は直ぐ間際にあって
微かに玲の甘い香りを感じる。

「あ、あの…、もう1つ左」

指が本を簡単に引き出すと
棗の目の前に差し出される。

棗は本ではなくその先にある
玲の顔を見つめた。

微かに触れた指と頬が熱を
帯びるのを感じながら小さく礼を
言って本を受け取る。
鼓動が強く打っているのが
自分でもわかった。


棗の頬を軽く突付いて
玲は目を細める。

「そんなに見つめると襲うよ?」

棗は凍りついたように
固まっていたが、
一気に耳まで赤くすると
「変なこと言わないでよ!」
と叫んだ。

しーっ!と慌てて玲は棗の口を
手で覆う。





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