君の瞳に映る色
黒塗りの車の中で、凛子は
ミラー越しに櫂斗を見た。
「いかがしますか?」
櫂斗は凛子には目を向けず、
加工の施された黒いガラスの
向こうの棗と瑠璃を
見つめている。
「人が多いのは面倒だな」
独り言のように呟くと
腕時計へと視線を落とした。
「時間切れだ。今日は取引先と
重要な会議が入っている」
深くシートにもたれ直すと、
ようやく前に視線をやった。
「出せ」
櫂斗の言葉と同時に
車が動き出す。
見えなくなるまで櫂斗は棗の姿を
目で追った。
「楽しみは次にとっておこう」
櫂斗は目を伏せると、口元に
笑みを浮かべる。
無表情の凛子が運転する車は
ゆっくりと棗たちから
遠ざかって行った。