君の瞳に映る色

棗と別れた瑠璃はしばらく歩くと
足を止めてカバンから携帯と柊の
名刺を取り出す。

しばらく見つめていたが、
意を決したように番号を押した。

長い呼び出し音の後に柊の
落ち着いた声がする。

どうかしましたか?と聞かれ、
「あ、の…西園寺さんに
会ったんです」
と短く言った。

柊の声は落ち着いたまま、
どこでです?と問いかけた。

「前に送ってもらった
わたしの家の近くです」

柊が次の言葉を言う前に、
あの、と瑠璃は続けた。

「知らせたくないって
西園寺さんは言ったんです。
でも、黙っておけなくて…」

『ありがとうございます』

耳に穏やかな柊の声が
ダイレクトに響く。
その声に後押しされるように
意を決して瑠璃は言う。

「できるならそっとしておいて
あげてください。
家では、言いたいことが
言えないんじゃないでしょうか」

『そうでしょうね』と、柊が
小さく笑ったのが耳にあてた
ケータイから聞こえる。

何も知らないのに、と
思われただろうか。

瑠璃は唇を噛む。

確かに詳しい家庭の内情は
わからないが、棗が無理を
しているのではないか
ということくらいは見ていれば
わかった。




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