君の瞳に映る色


窓の少ないこの家には
不釣合いな感じの窓に思える。

窓の外はまだ真っ暗な闇が
覆っていた。

テーブルの陰に玲は
身体を下ろす。
長い息を吐き出す玲を見ながら、
体力が限界に
近いんだろうと思う。

大きな窓を静かに開けると、
外はテラスになっていた。

生温かい湿度の高い風が
身体を包む。

前に自分が走って逃げた庭が
はっきりと見渡せた。

綺麗に形作られた庭木が、
闇夜に溶けるように普段の色を
隠している。

ふと思い出して、
棗は後ろを振り返る。


「…玲、前にホテルで
助けてくれたみたいにここから
飛べない?……玲?」


テーブルの脚に凭れたまま
動かない玲に慌てて駆け寄る。

肩を掴むと、
玲の瞳がうっすら開いた。

「…ん?どうした?」

癖なのか笑みを浮かべながらも
瞳はどこかぼんやりと宙を
漂っている。






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