王子様のお妃候補?
「父上。何故、何も言わないんですか?」
ミシェランが促すようにファルマーを見遣ります。その瞳も、いつもと違う父の様子に戸惑っているようでした。
しばしの沈黙が部屋の中で続きます。
その静かさにシャナも不安気にアリュエインを見つめていました。
「…アリュエインにお客様が来ている。」
やっとアリュエインたちに向けたファルマーの顔は何とも言えないような、不満そうなものでした。
「お客様?」
「…お入りください。」
ファルマーが声をかけると執務室の奥の小部屋から一人の男が入ってきました。
「カシェルク領の次期公爵のミシェラン様、その補佐であるフォルトマ様、そしてファルマー様の一人娘であるアリュエイン様…ですね?」
最後は確認するようにアリュエインを上から下まで眺めて言いました。
その目は、一瞬疑うように眉をひそめましたがすぐに元の顔に戻りました。
そのような視線には慣れているアリュエインなので、さして気にはしませんでした。
「父上、こちらの方は?」
フォルトマの問いに答えたのはファルマーではなく、その男自身でした。
「申し遅れました。わたくし、王宮からの遣いで参りました。王様の側近であるハルルク様の侍従をしておりますサムールと申します。」
サムールと名乗る青年は、優雅にその場で王宮式の挨拶をしました。
その仕種に合わせて、ミシェランやフォルトマ、アリュエインも同様に挨拶を返します。
挨拶を交わしながらもアリュエインの頭の中は疑問でいっぱいでした。
(なぜ、王宮の遣いが公爵地とは言え、こんな辺境にあるカシェルク領まで来たんだ…?)
「わざわざカシェルク領までようこそいらっしゃいました。しかし、こたびはどのような用件で参ったのでしょうか?」
丁寧に伺うミシェランにサムールは、懐から一通の手紙を出しました。
「ここに、王様からの正式な書状を届けに参りました。」
「王様!?」
さすがに”王様”という名にアリュエインもビックリしてしまいます。
「王様からの…。どういった内容で?」
「はい。お読み申しあげます。」
それは驚きの内容でした。