王子様のお妃候補?
サムールは鼻息も荒くアリュエインに異論をもたせません。
アリュエインは二人の兄たちに助けを求めようと見遣るが、二人とも困ったような顔をしてアリュエインを見つめていました。
王様直々の書状についてある鳳凰を象ったハンコは勅命の証です。
だから二人とも王様の命令であっては従うしかなかったのでした。
「…父様。」
ファルマーがアリュエインを見つめていて、目があうと小さく首を降りました。
「アリュエイン。お前が何と言おうとお前は『カシェルク』の名をもつ公爵位の令嬢なんだ。それを忘れてはいけない。」
ファルマーの”公爵”としての顔にアリュエインは何も言えなくなりました。
(そうだよ…。僕はこれでもカシェルクの名を背負う身。カシェルクの名を恥にしてはいけないんだ)
アリュエインは下唇を小さく噛み締めるとサムールを勢いよく見上げました。
「分かりました。明日、王宮へ出立いたします。」
「結構です。衣類などは城にたくさん用意してございますが、何かご用意するものがあれば持っていってもかまいませんよ。」
「わかりました。…あと、侍女を一人連れていきたいのですが。」
「いいですよ。」
「ありがとうございます。では、これから明日の用意をいたしますので失礼いたします。」
アリュエインは令嬢らしくお辞儀をしてからシャナを連れて執務室を出ました。
「アリュエイン様!さきほどの話…。本当にお行きになるんですか?」
「うん。これでもカシェルクの名をもつからね。まー、妃候補はたくさんいるみたいだから僕には関係ないよ。ちょっとした旅行気分で行くことにする。」
「そう、ですか。」
「うん。あ、シャナ。シャナには一緒についてきてほしいんだ。…ダメかな?」
「…!いえ!!とんでもないですわ!ぜひ一緒にお連れ下さい!」
アリュエインと離れ離れになるかもしれないと落ち込んでいたシャナはアリュエインの申し出を喜んで二つ返事で頷きました。
シャナの喜びようにアリュエインも小さく笑っています。
「…まぁ、すぐ帰ることになるだろうけど、行ってみるか!」
そして、この日、アリュエインの運命の輪が動き出した―…。