月見山の巫女
「お前さ、俺の名前覚えてる?」

唐突にそう質問され戸惑ったが、彼の名前については校内を歩いていれば誰かが噂している程、彼自身が有名だったため記憶として残っていた。

「…藤堂、皐月?だよね」

思案気に答えた浅香を見て、彼は驚いたようだった。やや目を見張っている。


「…正解。いや、でも驚いた。お前他人のことは一際興味なさそうに見えたからさ。」


「有名だからね、君。」


「有名…俺が?俺よりお前のが注目されてると思うんだけどな。」


注目?
言われたことに戸惑った。自分自身、そう目立つ容姿も行動もしていない。担任に注意されることはしばしばあるが、別段特に注目される程ではない…はずなのだが。


「そんな気にすることもないから。注目されてるとは言ったけど、お前の悪口言ってるとかじゃないからさ。」


そう言って気の抜けたように笑った彼は、開けたままの窓を手早く施錠すると、浅香の方へと再び近づいた。


「まあ、そんな事はおいといて、お前これから時間ある?…無いとは言わせないからな。その為に俺待ってたんだし。」


言うや否や、彼は浅香の鞄を引ったくるようにして掴むと、そのまま教室を出ていった。
< 10 / 18 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop