月見山の巫女
普段人が入り込まない土地。
しかし、今そこには女がいた。眺めているのは月か桜か、あるいは両方か。


―――…一際強い風が吹いた。揺れる草木の擦れる音。その音に混じって何か別の音が聴こえて来る。それは女の背後、光の届かない樹々の中からだった。

音はだんだんと近づき、闇を抜けて姿を現す。

現れたのは二人の男。彼らは女の元まで歩き、その背より一歩手前の所で足をとめた。だが、彼らは女を見つめるだけで特に話し掛ける様子もない。女も彼らに視線さえ向けずに、上を眺めるばかり。

再び静寂が訪れると思われた瞬間、

「死生命あり、富貴天にあり。」

女が口を開いた。視線はそのままに話し続ける。


「月は満ちた。時は再び廻り始める。この呪縛から逃れるために、今一度私に手を貸して欲しい。」

言い終わると、女はやっと彼らの方へと視線を向けた。

女の悲しげな表情が、月明かりにより鮮明に映し出される。

彼らはその顔を見まいとするかの如く、軽く拝礼するとまた闇の中へと消えた。

…女は再び視線を月へ戻す。頬を伝う一筋の雫、拭うこともせず女はただ見つめ続けていた。
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