月見山の巫女
僅かな表情の変化を感じとったらしい。
彼はやれやれといった風な仕草でため息をついた。

「…ごめん。」

軽く頭を下げて言う。

「今日、日直当番だったの忘れてた。」


担任の先生からしきりに言われていたのだ。
『明日の当番はお前だからな。絶対に忘れるんじゃないぞっ!』という感じに。

どこかぬけている浅香に、わざわざ気を効かせて教えてくれたのだろう。
…結局、無駄に終わったが。

「いいよ別に。俺怒ってないから。」

浅香が悶々と後悔に浸っている最中に告げられた。
呆れた風ではあった。しかし、その声には怒気は含まれていない。

「…?」

「…ッハハ、あのさ、お前面白いな。そこまで落ち込む必要ないだろ。」

日直の仕事はそう大変なものではない。窓の開け閉めと日誌に今日何があったかを軽く書くだけだ。
それに日直当番はペアで行なっているため、最悪一人がやらなくてももう一人が行えばいい。

(――でも、)

「でも俺、何にもしてない…」


―――ガタン
少し離れた所で音がした。うつ向いていた顔を上げると、先ほどまで近くにいた彼は、いつの間にかまた、窓のそばにいた。
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