風が聴こえる
「そっくり・・・?」
怪訝そうに反応する俺に、中年夫婦の妻の方は慌てて俺を病室の外に出す。
「君は・・・絵里のお見舞い?」
「絵里って・・・さっきの子ですか?」
中年の女がうなずく。
「違います。俺はただ、母親の見舞いに来てただけです。」
「じゃぁ、初対面なのにいきなりあんな事したの?ごめんなさいね。でも、悪気は無いの・・・。」
・・・悪気は無いって・・・・。もしかして、誰にでもスキンシップを求めてしまう病気で入院していたとか・・・?
「もしかしたら、気が付いたかも知れないけど・・・あの子は、目が見えてないの。」
目が見えてない・・・?
 あの少女が俺の方を向いた時の、あの定まらない視線や、ベッドから起き上がったときの、震えた手足。
 それも全て、目が見えてないのが原因・・・?
「娘は、絵里は、一週間前に事故に遭ったの。」
娘って事はやっぱり、この女はあの少女の母親か。
「その日ね、絵里は彼氏の準クンと一緒に映画を観に行ってたの。でもその帰り、トラックに轢かれかかってる。猫を見つけて、慌てて飛び出した絵里をかばって、準くんまで・・・。」
「それで、二人はどうなったんですか?」
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