【Transformation of Tony】トランスフォーメーション・オブ・トニー
冴子は彼に気付いて
なかったみたいだけど
何処をどう走って来たのか?
冴子を置き去りにして
気が付いたらアパートの
入り口の前に座り込んで
声を上げて泣いていた。
確かめる必要なんか無い。
泣く必要なんかない。
こう見えてもアタシは
強いの!
最近、彼がアタシの話に
上の空だって事も気付いてた。
昨日、冴子を誘ったのも
気付いてる自分の気持ちを
誤魔化す為‥
明日、冴子に謝らなくちゃ!
泣くんじゃないったらアタシ!
しなやかな手がハンカチを
差し出す‥
『アリガト・・・』
『ねぇ、麗子ちゃん。
たまには飲みに行こっか?
今夜付き合ってよ。
今日はとっとと店を閉めて
アンタを徹底的に
磨いちゃうワ♪
良いわねっ?』
『うぅっ‥』
『あら、鼻が真っ赤ね、
はい、チーンして‥』
チーン#
チーフが誘うなんて
初めてだ。
よっぽど酷い顔して
泣いてるんだ‥
数時間後、
ぐちゃぐちゃになった
メイクにグラマラスな
髪型のアタシが鏡の向こうに
座っていた。
『エヘヘ‥酷いね‥』
力無く笑ってみせる。
『アンタ!それじゃあ
表に出らんないわよ。
こっちいらっしゃいっ!』