【Transformation of Tony】トランスフォーメーション・オブ・トニー
通勤ラッシュにも一段落
ついている時間帯、
麗子は駅前の昨日チーフと
待ち合わせをしたCafeに
向かっていた。
昨日見ていたメニュー表に
モーニングセットで
リゾットがあったのを
覚えていたのだ。
一人暮らしをする様に
なってから、麗子の朝は
殆ど朝食抜きで、冬場は
ホットミルクやココアを
一杯飲んで部屋を出る。
不思議と二日酔いの日には
逆に何か口にしたい気持ちに
なるのだ。
平日の皆が働く時間帯に
ボサノヴァを聴きながら
ゆったりとリゾットを
食べる‥
まるでキャリアを積んだ
“出来る女”になった様な
優越感さえ覚える
ラグジュアリーなひととき‥
そんなセレブな妄想を抱きつつ
店を訪れた。…黒装束で…。
店に着くなり、昨日チーフが
座った座席に着く‥
麗子はモーニングセットを
注文すると、昨日のチーフの
事を思い出していた。
厳密に言うとチーフと
言うよりは、素のトニーの方
なのだが…。
ニッと笑ってサムアップ
してるトニー
眼鏡を外してウインク
してるトニー
カウンターに片肘ついて
その上に頭を横たえて
此方を眺めてるトニー
ハァ~
頬杖ついて夢見心地の表情で
溜め息をついている。
慎也の面影など微塵も
浮かんでは来ない。