【Transformation of Tony】トランスフォーメーション・オブ・トニー
『いらっしゃいま‥』
やはり黒装束の突然の
訪問者は、アシスタントの
男の子の来店挨拶を
言い澱ませた。
それぐらいサングラスには
威圧感があった。
慌てて気を取り直し、
アシスタントが接客
スマイルに切り換えると
麗子の前に駆け寄った。
『いらっしゃいませ。
ご予約戴いてました
でしょうか?』
『あっ、いえ‥。』
『そうですか‥
少々お待ち頂く様に
なりますが宜しいですか?』
『ハイ♪全っぜん
構いません♪喜んで♪』
おかしな返答をして来た客に
引き吊った笑みを浮かべ、
雑誌を並べてあるテーブルの
コーナーに案内すると
アシスタントがチーフに
何やら耳打ちした。
チーフが麗子の方を
振り返る。
麗子はニッと笑い、
チーフに向かって小さく
手を振ってみせた。
チーフは一瞬、黒装束の客を
気付かれない程度に
いぶかしげに見たが、
直ぐ様接客スマイルに
切り替わり、麗子に
向かって軽く頭を下げた。
どうやら麗子だと全く
気付いていないらしい。
施術中のお客さんに
笑顔で向き直ると、そのまま
最後のブローに取り
掛かかった。
麗子は、うっとりと
働くチーフを眺めてる。
置いてある雑誌が
気に入らないのか?
アシスタントが気を使って
麗子に話し掛けて来た。
《もお!気が利かないわねぇ
話し掛けなくても
いいってば!》
心の中で呟く。