【Transformation of Tony】トランスフォーメーション・オブ・トニー


『Yo♪Yo♪って!
何やらせるのよ!』


麗子は漸く自分の姿が
端からどう見えているのか
把握出来た。

チーフがイメージする
ラッパーと言う印象も
如何なものかと思うのだが‥。


『せっかくビックリさせて
やろうと思ったのにぃ!』

唇を尖らせてそう言いながらも
結局、麗子は大人しく
テーブル席で待つ事にした。


アシスタントの男の子が
麗子にコーヒーを運んで来た。

『済みません。
有難うございます‥。』

先ほどとはガラリと変わり
麗子が低姿勢だ。

自分が何者であるか
周りの者に判らない場合、
人は大胆になるものなのだ。

これは旅の恥はかき捨てに
似ているが、同時に

犯罪者心理の見解から
すると麗子は十分に
犯罪者の素質もありそうだ。

その証拠がさっきの10万円だ。

しかし、当の本人は、まだまだ
理性が働いていた。

布製のバッグの中で
財布を開いて常務の10万円を
数え、9枚の諭吉を、
1枚の諭吉を横にして挟み、
自分のお金と別にすると
パタンと財布を閉じ、
うむ、と何かを決めた様に
頷いた。


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