【Transformation of Tony】トランスフォーメーション・オブ・トニー

嵐を呼ぶ男、更に接近中



一方、チーフが棚橋さんの
メイクをしていた頃、
駅前のビルの一画では、
開店準備を着々と進め、
内装工事が行われている店が
在った。

外資系の化粧品メーカーが
メイクだけで無く、トータルで
女性の美を追求する店。

そこには、先ほど
リムジンバスで到着した
ばかりの長谷川瑞希の
姿があった。

現場では、真新しい
建材の匂いや塗料の匂いが
入り混じり、敷き詰められた
ホテル仕様のカーペットの上
には透明のビニールシートが
被せられていた。

工事を進める男の一人を
長谷川が、到着して早々、
いきなり怒鳴りつけた。

『何だ!この安っぽい床材は!
場末のキャバクラじゃ
ないんだぞ!

それに…髪を絨毯敷きの床の
上で切らせる気か?
カットの度に掃除機なんか
かけていられるか!

壁も全く話しにならない!

床はマーブル(大理石)だ!

そこはそんな陳腐な
小便小僧なんかじゃなく、
ヴィーナス誕生の絵画だ!

担当したのは誰だ?
空間プロデュースを担当した
奴を呼んで来い!』

突然の叱責に慌てて
現場担当がコーディネーターを
呼びに行く…

『お呼びでしょうか?』

そう言いながら腰を屈め
低い姿勢のまま小走りで
担当者が駆け寄って来た。

『全部やり直せ。
明後日までにだ!』

『む、無理です!そんなの。
材料の発注を今からし直しても
到着は一週間後になります!』



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