【Transformation of Tony】トランスフォーメーション・オブ・トニー
チーフのヘアメイクスタジオ
では早速、麗子を相手に
コンテストに向けての
練習が行われていた。
『ねぇ、麗子ちゃん?
麗子ちゃんは、どう言う
女性でありたいと思う?』
麗子の髪をブラッシング
しながらチーフが尋ねる‥
『アタシ?うーん、
仕事もテキパキこなせて、
気配りが出来て、綺麗で、
頭の良い人‥かな?』
麗子は会社の先輩、高野を
思い浮かべながら答えた。
高野先輩は、30代半ばだが
絵に描いた様な“出来る女”
の見本とも言えるほど麗子に
とっては憧れの存在であった。
古株の未だ独身だが、彼女を
お局様などと呼ぶ者は無く、
憧れる者は多くとも陰口を
叩く様な者は一人も居ない。
仕事に対して厳しさを
持っているが、決して
ヒステリックになる事は無く、
後輩にも常に自分で考えさせ、
万が一、失敗してもその
アフターフォローは
完璧だった。
彼女のお陰で、どれだけの
新人が実力を身に付けたことか
新人が彼女の下につくと、
まず彼女は手帳をプレゼント
する。
初歩的な事、自分で忘れそうな
事は自らメモを取る癖を
付けさせ、同じ間違いを
した箇所には赤ペンで
チェックを付けさせる。
仕事の上で何か提案して来たら
まずはやらせてみる。
勿論、とんでもない失敗を
した者も居るが、彼女は
先読みしてフォローの
出来る範囲で事前にそれを
くい止めた。