【Transformation of Tony】トランスフォーメーション・オブ・トニー



麗子は長谷川が言った言葉が
後部からの追突事故の話し
だと解ると、内心ホッとした。

が、話しの流れからすると
完全に安心する事は
出来ずにいた。


『おっと、気が付きませんで
お客様がいらしたとは‥。』

長谷川が麗子の存在に
気が付いて一礼した。

『いえ‥、お客って言う
ほどの者じゃ…。』

麗子が言うと、


『貴方も、こんな薄情な男の
側に居るとロクな事に
なりませんよ。』


皮肉を込めて長谷川が
忠告する。

『チーフは、そんな悪い人
じゃありません!
きっと帰国したのも何か
大事な用があったから‥』

『だが、ロスへはその後
戻らなかった。』

長谷川が麗子の言葉を
遮った。


『まぁ、今日は開店の挨拶で
寄っただけだ。

他の客にこんな話しを
聞かれるのも気まずい
だろうから、わざわざ
予約を入れて来てやったんだ。

これはシンディの好きだった
花だ。
店に飾って彼女の事を
時々でも思い出して
やってくれ。』


長谷川が抱えていた花束を
放り投げる様にテーブルに
置き、それだけ言うと
去って行った。

店内にはテーブルに
置かれた黒い薔薇の香りが
立ち込めていた。



< 68 / 83 >

この作品をシェア

pagetop