【Transformation of Tony】トランスフォーメーション・オブ・トニー


長谷川と言う男が言った事は
本当なんだろうか?

チーフが簡単に誰かを見捨てる
ような人だとは思えないし‥

棚橋さんのおばあちゃんと良い
常務の奥さんと良い、あんなに
優しい眼差しで語り掛けていた
チーフが、シンディと言う
女性を簡単に見捨てる筈が
無いよ。

真相を訊いてみたい
気もするけれど何て言って
良いのか判らない。

長谷川が去った後、
薔薇の香りと共に暫し重苦しい
空気が店内を包んでいた。

暫し沈黙を保っていたチーフが
時間の魔法が解けた様に
動き出し、麗子の髪を纏め
ながら、口を開いた。

『麗子ちゃん、悪いわね、
せっかく練習に付き合って
貰ってるんだけど…
今日はこれで帰って
くれるかな?

時田君も今日はもうあがって
良いよ…。後始末はやっておく
から、たまには早く帰りなよ。

まぁ、人生には予期せぬ
出来事もあるもんだって
ことで…。』


どうしよう…

訊いてみようか、それとも…

きっとチーフは思い出したく
ないんだ。

こんな時に掛けるべき言葉が
見つからない。

『ねぇ、チーフ…
飲みに行こうか!
昨日、おごってもらったから
今日はアタシのおごりで♪』

麗子が極力明るく言ってみた。

『悪ぃ…今日はもう…
励ます気力も残ってないし、
励まされるのもキツイかな…』

チーフがトニーの言葉で
呟いた。


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