【Transformation of Tony】トランスフォーメーション・オブ・トニー



麗子が殆ど息継ぎ無しで
鬱積した怒りを慎也に
爆発させた。


連射したセリフには、
オプションで慎也の心無い
言葉にブチ切れた麗子が
途中、冷蔵庫から持ち出した

ダージリンティーの
シフォンケーキや、生卵の
爆撃が附いていた。


バタ――ン#


思い付く限りの反撃の言葉を
言い終えると無情にもドアは
再び勢い良く閉ざされた。


慎也は、これまで見たことも
無い麗子のキレ具合に
言い返す事も出来ず、

冷たく冷えたシフォンケーキと
生卵にまみれ、冬の寒空で
茫然としてその場から
動く事が出来ずにいた。


何より、麗子に言われた
『ブーメラン男!』と
『ピンボール男!』と言う
特撮ヒーローものに出て来る
怪人の様な言われように
ダメージを隠しきれなかった。

彼の脳内では、ゲーセンの
巨大なピンボール台の盤上で
自分が女の子達の間を
行ったり来たりしながら、

その都度、頬をひっ叩かれては
情けなく右往左往する姿が
浮かんでいた。

その次は、オーストラリア
訛りのカウボーイが、
自分の両足をむんずと掴み、
遥か彼方上空に投げ飛ばし、
くの字に体を曲げて再び

男の元へ戻って行くと言う
アニメチックな自分の情けない
姿が浮かんで来ていた。


何より此処へ来たのは、
新しい女の前で昨日
麗子にひっ叩かれた腹いせに
もう一度、麗子をその気に
させて、今度は自分が
捨ててやると言うのが
目的だった。


『うお―――――!』


慎也はとうとう屈辱に
堪えきれず雄叫びを挙げながら
走り去って行った。



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