【Transformation of Tony】トランスフォーメーション・オブ・トニー
ビルの1階、エレベーターを
待つのももどかしく、麗子は階段を駆け登った。
階段を登って直ぐの所に
ブルーとピンクのネオン
チューブに彩られた店の看板が
見えて来た。
[Saloonローハイド]
店の前まで来ると、今日も
ジョン・ウェインの等身大
パネルに銃口を向けられ、
スイングドアを抜けると、
そこには異世界が広がって
いた。
麗子が入り口に立つなり
店内に居た客達が一斉に
こちらを見る。
その中にトニーの姿はやはり
無かった。
この中に入って良いものか?
見えない国境の様なものが
踏み出す1歩を躊躇わせる。
『よう!いらっしゃい。』
マスターの声に一瞬止まって
いた麗子の時間が動き出した。
『いらっしゃい!
そんなトコに突っ立ってないで
入んなよ。』
マスターがアメリカンな
手招きで麗子を迎えた。
『ど‥ども…。』
オドオドしながらコクンと
小さく頭を下げると小動物が
警戒しながらエサに近付く様に
麗子がカウンターの方へ
歩みを進めた。
『お客さん初めて…?
…あれ?この前確かトニーと
一緒に来てくれた…
なんかこの前と雰囲気違うから
一瞬、判らなかったよ。
えーと、確か…』
マスターが片目を瞑って記憶を
辿っている…