愛の手

あの恐怖は、与えられたものにしかわからない。


呼吸が出来なくなるほど走って、何度も殴られて、それでも逃げて。

あたしにゴールなんてなかった。



ゴールをつくってくれたのは、総司さん……




「残念だが、愛理の母親の実家だ。旧姓が矢崎、という名だろ」

「……そう、…だった、かも」

あたしの顔はみるみるうちに蒼褪めていった。



ウソをいわない総司さんが放つ言葉。

母親の旧姓が、矢崎という偶然。



あたしを狙ったのは、本当に親戚だ、っていうの?



「会社で責任を押しつけられた愛理の父親が、ワラをもつかむ気持ちで、矢崎組に金を借りたらしい。五百万を借りただけが、違法な金利で即座に八千万まで吊り上がったんだ」

「なん、で? お父さん…そんなコト一言も……っ」

「心配かけたくなかったんだろう。
愛娘に見せたくなかったんだ、ヤクザの世界を」



ヤクザの世界。



それが、本来あたしのいるべき世界だったというの?


頭がパンクしそう。

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