愛の手

重い腰をよいしょ、ってあげると、礼央は扉に手を添えた。

あ、と声をあげて、あたしをふり返る。


「オレや矢崎組のヤツらは、これから集会だ。誰もいなくなっちまうけど、お前は“家”でおとなしくしてろよ」

「え……っ」


「忘れっぽいオレは、愛理を縛り忘れちゃうかもだけどな」

あたしの手足の縛りはゆるい。

少し動いていたら解けそうなくらいだ。



礼央はニカッと笑った。


「じゃあ、イイコにしてろよ」

ウィンクしながら出ていったあと、扉がバタンと音をたてて閉まった。


鍵の音は、聴こえない。




(そういう、コトね)



あたしはほっと息をついた。

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