愛の手
「お嬢、朝餉の用意が出来ました」
「……仁さん」
ここにきてから、あたしはお嬢と呼ばれるようになった。
跡とりでもなんでもない、ただの借金抱えたガキだというのに、舎弟の人々はあたしに頭を下げる。
なぜかと聞くと、総司さんがそう命令したらしい。
トップの命令は、ヤクザにとって絶対らしい。
あの日、総司さんに逆らった周防さん。
あたしを殴ったヤクザ一味だとはいえ、人が殴られているとちょっと気になる。
どうなったの、って聞いても、誰も答えてはくれなかった。
あたしとしては、ヤクザとなにもかかわりたくない。
それなのに、彼らはなにかにつけてあたしのそばにいる。
あたしの一人の時間は、せいぜい学校にいってるあいだくらいだ。
ため息混じりに部屋から出ると、あたしは朝食を食べに居間へと向かった。