愛の手
戸惑う手。
せっかくの休日だというのに、総司さんは仕事があるらしい。
結局宿泊してしまったあたしたちは、与一さんの迎えで部屋をあとにした。
気まずい場所なのに、与一さんはにっこり笑顔で、出迎えてくれた。
迎えの車は白いゼロクラウン。
「……めずらしいデスね、白なんて」
与一さんが運転しながら笑った。
「昨日納車したばかりですぜ。気に入りましたか、お嬢」
気に入るもなにも……
いつもの黒塗りメルセデス様や昨日のフェラーリ様よりは、おとなしく見えてるからね。
「落ち着いててキレイ」
与一さんは、バックミラー越しに口の端を吊り上げた。
「ですってよ。よかったですね、若」
えっ?
なんで……若様が?
隣に座る総司さんは表情を変えることなく窓の外を見てた。
その様子をニヤニヤと含み笑いをしながら、与一さんは少し荒い運転でヤクザ屋敷まで向かった。