愛の手
ヤクザ屋敷に着くなり、総司さんは待ち構えていたべつの車に乗りかえた。
見慣れてる黒塗りのメルセデス様。
運転手はいつもよりきちんと正装してる仁さん。
サングラスを外して正装のせいか、いつもよりカッコよく見えた。
「おかえりなさい、愛理さん」
「ただいま」
やわらかい笑顔で迎えてくれた祐輔さんのそばまで近よった。
やっぱりこの巣窟の中で、唯一ほっとする居場所。
「では若、参りましょうか」
誘導されながら、総司さんの髪がなびく。
ふわりと香る、甘い匂い。
朝までそばにあった匂いが遠ざかってく……