[短編]「I can't」
リビングに通された樹音の前には温かいココア。


「雨で冷えたでしょう?」と、彰人の母が入れてくれた。


隣では彰人が熱そうにココアを口に運んでいる。


…彰人って猫舌だったんだ…


のん気にそんな事を思った。



「桜井さん、来てくださって本当にありがとうね」


「いえっ…そんな」


「彰人がお友達を連れてくるなんて…“あの時”以来だわ、本当に良かったわ」


彰人の母は嬉しそうに微笑んだ。


「…“あの時”?」


「そう、二年前の…」


「すみません、何のことですか?」



二年前…あの時…?
樹音に心当たりはなかった。

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