[短編]「I can't」
彰人の母は淡々と話した。


「頭を強く打ったみたいでね…家族のことも覚えてなかったのよ。唯一覚えていたのは自分の名前だけ…」


「……」


樹音はあまりに衝撃的な事実に言葉を失った。


二年前と言えば彰人と距離が出来始めた頃だ。


彰人がそのような状況になっていたこと、想像もしていなかった。


噂すら聞かなかった。


“あの頃、会いに行っていれば…”


勇気がなかった自分を後悔した。


例えそれで事故を防げなくても、そばにいて彰人を支えられたかもしれない。

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