[短編]「I can't」
彰人は樹音が歩いてくる道を辿った。


いつも帰りは樹音を送っているので、自宅までの道のりも知っている。


途中で、いつものあの赤い傘が見えるだろうと思った。


自分の姿を見て、嬉しそうに笑顔で駆け寄ってくる樹音の姿を想像した。


しかし、歩いても歩いても、
彼女の姿が現れない。



…どうしたんだろう?



彰人は言い知れぬ不安を抱いた。


樹音に会えないだけで、こんなに不安になるものなのか。


彰人は気づいていた。
この頃はずっと樹音のことばかり考えていたことを。

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