[短編]「I can't」
彰人は一週間前と同じように、立ち止まって樹音を見た。



「…この前の」



少し間があったが、樹音のことを覚えているようだった。


もちろん、覚えていないなんて考えられない話だが…



「彰人と話がしたくてずっと待ってた…」


樹音の声は、雨の音にかき消されそうだった。


避けられているかもしれない相手に再び近づくのは、どれだけ勇気のいることか。


…少し、震えた。

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