空想リフレクション
美術の時間。

美術室の窓から外を眺めると彼がボールを蹴って走り回っている。

美術の時間になると彼は校庭にあらわれる。

ユキノはスケッチの続きにとりかかる。

そうしないと画用紙はすすんでいかないから。

すすみたいから。



保育園に通っていた頃に絵を描いていたような気分。

からっぽを想っていたパレットに水色とピンクと白と黄緑と、色が拡がっていく。

満たされていく。


ミヤセンの注意はもう聞こえない。

マフラーが左肩からひとつほどけたことに気付かないまま、どれだけが込められていたかもわからない言葉をただただ想う。

授業中に校庭を制服でサッカーボールを蹴って走り回る誰かを、みんな不思議に思わないのか、教師たちは注意しないのか、そんな疑問はもうどうでもよくなっていた。


わかっているから。

気付いていないだけで。


美術の時間になると彼は校庭にあらわれる。

美術の時間になるとユキノの思考はあらわれる。

筆と絵の具で汚れるようにあらわれる。あらわれる。あらわれる。



色がまとまっていく。

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