団☆乱ラン


「あれほど言っていたのに、つけてきたわね?」


仁王立ちの彼女が低い声で言う。



鳥肌が立つ様な威圧感のある声と、彼女から沸き立つ黒いオーラ。



思わず怯んでしまいそうになる…


なのに

「いいえ。その様な事は決してございません」


言い切った彼にからは動揺の欠片も見当たらない。



「なら、なぜあなたはここにいるの?…しかも、経緯(いきさつ)を見てたわね?」



見下すような彼女の視線。



自分に言われているわけじゃないのに、ぞくりと背中が粟立つ──



「そろそろお嬢様のお帰りになられる時間だと、こちらで待機しておりました…ただそれだけでございます」



全く動じず、笑顔のまま返事を返す彼に、見ている周りが逆に動揺してしまった。



あからさまな上下関係の中に、明らかに逆転している何かが見える。



お釈迦様の手のひらの孫悟空が頭をかすめた。



手の中の定期入れの感触に、物凄くとんでもない物を拾った気がしてきた。



音が聞こえそうなくらい、ごくっと生唾を飲み込む。



美しい人には棘がある。


まさにその通り──だ。



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