月と太陽の事件簿10/争いの樹の下で
しかも、と由美は人さし指を立てた。

「祖父は現内閣の法務大臣・月見倫太郎。現役大臣の孫なんて、うちの学校では月見くんだけよ」

事実だった。

つまり達郎は今回の事件に関わったあの4人と比べても見劣りしないほどのエリートなのだ。

「親子3代でこの国の司法に携わるとはね。大したものだわ」

「そんな家の人間に協力してもいいんですか?」

達郎は正面から斬り込んでみた。

なんとなく、駆け引きは無駄だと思えたからだった。

「別に。月見くんが事件を調べてる理由に興味はないわ」

別に?

「それにあたし、あの4人の味方じゃないし」

味方じゃない?

達郎は由美の言葉に驚きを覚えた。

「でも佐伯先輩は…」

言いかけて、次の言葉が出てこなかった。

由美の真意が、まったくわからない。

しかし今日の由美の振る舞いはどうだ。

いつも昼休みに見ていた『争いの樹』の下での、たおやかな印象はどこにもない。

「そろそろ事件の話する?」

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