月と太陽の事件簿10/争いの樹の下で
「気をつけなよ」

達郎は押さえ付けている青色にささやいた。

「あの人、実戦空手の全国大会で優勝してる人だから。下手に絡むと殺られるよ」

「殺りゃしないわよ」

即答した麗美に、達郎は地獄耳とつぶやいた。

「あんたこそ合気道歴10年の黒帯でしょ。その気になりゃ腕の1本ぐらい折れるんじゃない?」

「折らないよ、まだ」

達郎は語尾の「まだ」を強調した。

それだけでも青色には充分効果的だった。

「は、放せ!」

青色は悲痛な叫び声をあげた。

その言葉に従い、達郎が手を放すと、青色は灰色と赤色のもとへ駆け寄った。

うめき声をあげ続ける2人に肩を貸すと、青色はあわててこの場から逃げ去っていった。

「覚えてろよとか言わないのね」

遠ざかる3人の背中を見ながら、麗美はなぜか残念そうに言った。

遠巻きに事の成り行きを見守っていた人たちから、小さな拍手が起こる。

「ありがとうレミ。おかげで助かった」

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