月と太陽の事件簿10/争いの樹の下で
「真世さんとは違う?」

「…彼女は関係ないだろうが」

「照れるなよ兄さん」

「やかましい。それよりもだ、殺人の線は薄まったぞ」

「それどういうこと?」

「ニコチンは微量でも人を殺す事はできるが、空気に触れると茶色く変色するんだ」

「ああ、昔のミステリに書いてあった」

ジュースの缶に塗られていたニコチンは、変色しない程度にまで薄められていた。

「犯人はジュースを口にした人間を確実に殺すことよりも、ニコチンがバレないことを選んだと思われる」

「…ニコチンを口にした人間の醜態さえ見られればいいと?」

「愉快犯の可能性は充分考えられるな」

「でも毒の威力は二の次ってことは、馬場の自演という見方も捨て切れないよね」

「まぁ、そうなるな」

結局、捜査の進展はないわけで、そのせいか秀昭は難しい顔になった。

「これという動機が見えてこないのが問題なんだよな」

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