月と太陽の事件簿10/争いの樹の下で
「それは簡単です。飲まなければいいんです」

江川は目を見開いた。

「誓いの盃でもあるまいし、奢る立場の江川先輩がジュースを飲む義理はないでしょう?」

「…だがあの日、毒を塗ったジュースを口にしたのは馬場だぞ」

「ですがその馬場先輩とジュースを交換したのは天堂先輩です」

天堂が自らジュースの交換を申し出たことで、天堂に嫌疑がかかる可能性が出てきた。

「飲むなと止めたところで不自然だし、毒を塗ったジュースを受け取ったのは、反りがあわない馬場先輩でした」

塗ったニコチンが致死量にはるか遠かったことも、馬場を止めなかった理由だと達郎は考えた。

「気に入らない馬場先輩が醜態を晒して、天堂先輩に嫌疑がかかる…一石二鳥ですよね?」

「そこまで見抜かれていたとはな」

江川は空を仰いだ。

「一度、失敗したんだ」

「天堂先輩が毒を塗ったジュースを受け取らなかったんですね?」

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