月と太陽の事件簿10/争いの樹の下で
「失敗した時点で、毒を塗ったジュースを処分しておくべきだったな。おかげで君に見抜かれてしまった」

江川は辺りを見回した。

「警察は来ているのかい?」

達郎は首を振った。

「先輩の意志におまかせします」

「ありがとう」

江川は笑顔を見せた。

「今さら言うのもなんだけど、僕は正直ホッとしているんだ」

江川は【争いの樹】を眺めた。

「あんなことがあって互いに疑心暗鬼になってるのに、この樹の下では何事もなかったかのように過ごす…プライドのせいでね」

エリートとして弱味を見せまいと、いつも通り振る舞う。

若さゆえのものもあったろう。

江川はそんな日々に嫌気がさしていた。

「たぶん他の連中も似たような気持ちだったんじゃないかな」

江川は達郎のもとに歩み寄り右手を差し出した。

「君のおかげで決心がついた。ありがとう」

達郎と握手をかわすと、江川は晴々とした顔と声で言った。

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