月と太陽の事件簿10/争いの樹の下で
そして達郎に軽く頭を下げて【争いの樹】の下から立ち去った。

達郎は江川の後ろ姿を、ずっと眺めていた。

「エリートってのも大変だな」

校舎の陰から姿を現わした秀昭が、達郎の横に立った。

「兄さんだってエリートだろ」

「俺はエリートなんかじゃないぞ」

「国家試験通ったキャリアがなに言ってるのさ」

「俺はただ単に変わってるだけだ」

「自覚あったんだ」

「やかましい」

秀昭は弟の頭を軽く小突いた。

「学校には話をしておいた。後のことは任せろ」

「頼んだよ兄さん」

「しかしなんだ、父さんの言う通りになったな」

秀昭は感心した様子で腕組みをした。

「俺より上手く事件を解決しちまいやがった」

「たまたまだよ」

達郎は首を振った。

「運が良かっただけさ」

「いや、父さんから聞いたぞ」

そう言って今度は、秀昭が首を振った。

「お前、家で事件の報道をみると、推理してみせるそうだな」

「たまに、ね」

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