月と太陽の事件簿10/争いの樹の下で
「マヨネーズ嫌い云々って話を盗み聞きするのは不自然だよね。どっかに食事に行った時の話だろ?」

「まいった」

秀昭は両手を上げて苦笑した。

「隠すつもりはなかったんだがな」

そう言って、ちらりと後ろを振り返る。

はにかむウェイトレスと目が合い、互いにうなずきあった。

「まぁ、いずれきちんと紹介する。父さんたちにもそう伝えてくれ」

「了解。で、あの人の名前はなんて言うの?」

「ああ…」

秀昭は一瞬口を開きかけ、すぐに口ごもった。

「まぁ、それは…なんだ…」

そんな兄の様子を見ながら、達郎は再び唇を尖らせた。

「兄さん、名前が言えない理由(わけ)があるんだね?」

あの女性(ひと)のマヨネーズ嫌いに関することだねと言葉を続けた。

「ペン持ってる、兄さん?」

「完全に自滅だな」

苦笑いを浮かべる秀昭からペンを受け取ると、達郎はテーブルにあった紙ナプキンを手にとった。

「兄さんの彼女はこんな名前?」

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