電光石火×一騎当千
がさがさ揺れる茂みから顔を出して──

「ひっ?」

突きつけられた二本の刀に悲鳴を上げたのは、

年の頃なら十六、七才と思われる愛らしい少女だった。
肩ほどの長さに切り揃えた、ふわりとした亜麻色の髪がよく似合っている。


「何だ、女か」

言って、黒コートの男は早々に大太刀を下げた。
どうやら女には甘い性格らしい。


「お前一人か? 何故、こんな所に若い娘がいる?」

一方、黒髪の女のほうは注意深く周囲に視線を向けながら、瞳に紫の光を灯したまま、突きつけた小太刀を下ろそうとしない。


「ああああの、アタ、アタシはですね、この人たちに捕まってまして……」

飴色の瞳に涙を浮かべて、少女は震える声を出した。

「逃げ出すチャンスはないかなーと様子を窺ってたんデスが……あわわわわ」

胴から真っ二つに斬られて臓物を撒き散らしている死体やら、
首があらぬ場所に飛んでいる死体やら、

血の海に散乱して悪臭を放っている山賊たちの凄まじい姿を見て、真っ青になって座り込んだ。


少女の様子に、ようやく女も刀を引いた。

「山賊に捕まっていた娘か」

そう言って、小太刀を鞘に納める。


「この辺りの者か? こいつらの首を金に換えたいんだが、侍座のある村か町はないか?」

「さ、侍座──剣客ギルドですか? でしたらこの先の町に……」

男が尋ねて、少女は怖々といった表情で答えた。

剣客ギルドというのは、仕える主を持たない腕利きの侍に仕事を斡旋する組合のようなもので、『侍座』とも呼ばれ、国を越えてこの大陸各地に存在している。

戦乱のご時世だ。
侍座が斡旋する主な仕事と言えば、やはり戦場に派遣される足軽傭兵の職ではあるが、

この山賊たちのような賞金首の情報を紹介したり、お役所に代わって速やかに賞金の支払いをしてくれたりもする。
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