電光石火×一騎当千
天真爛漫と見えた少女のこの変貌ぶりは、どうしたことだろう。

どこか妖艶な、挑発的な微笑を湛えたコハルを、しばらく絶句したように見つめて、

カミナルはやれやれと溜息を吐いた。


「コハル。お前はいくつだ?」

「十六よ」

「なら、自分で自分の行動に責任は持てる歳だな」


タイホウが去り際に、
コハルの耳元で「良かったら今晩、部屋で待ってるぜ」とお得意の甘い囁きを残していったのは、もちろんカミナルも気がついている。

カミナルは肩をすくめた。


「ならば私の関知するところではない。好きにしろ」

コハルはそう言い放ったカミナルに、値踏みするかのような視線を注いだ。

「ふうん? 本当にタイホウさんのことは何とも思ってないんだ」

「そう言った」

「実は男に興味がないとか?」

「……これでも好きな男ならいた」

へえ! とコハルは飴色の瞳を輝かせた。

「どんな人? 気になるなあ。
だってその人、カミナルさんが本当に認めた人ってことでしょ」

「……ああ。
強さ、知性、そして男としても──認めていたし、心から尊敬していた人だった」

杯の酒に映った灯火に視線を落としたカミナルの様子を眺めて、
コハルはあーあ、と言いながら席を立った。

「なぁんだ、てっきりそっちのシュミかと思ったのに、残念」

コハルは真っ赤な舌でぺろりと唇を舐める。


「タイホウさんも素敵だけど、

あたしが本当に気に入ったのは──カミナルさんのほうだったのにな」


カミナルはぎょっとしてコハルを見上げた。

「ふふ、こういうの何て言うんだっけ、諸刃の刃?」

コハルは、熟し切っていない少女ならではの妖しさを秘めた笑いを浮かべている。

「……それは意味が違う。両刀使いと言いたいのか?」

「そうそれ。あたしってば両刀使いなんですよん」

「……悪いが私にその趣味はないぞ」

「うん、よくわかった。
じゃあ、今晩はタイホウさんに慰めてもらおうっと」


歌うように楽しげに言って立ち去るコハルの背中を、カミナルは茫然と見送った。
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