電光石火×一騎当千
「まあ、その頃の俺は、この世で己が一番強いと信じてのぼせ上がった馬鹿な侍でね」

タイホウは過去の自分を思い浮かべて自嘲した。

「自分以外の他人なんざ、ゴミ同然と見下してるヤな奴だった」

「タイホウさんが?」

コハルが目を丸くした。

「意外~」

「そんな俺をあいつは出会って早々に──」

「早々に?」

タイホウは美しい口元を、ニヤリと吊り上げた。

「──見下しやがったのさ」



あの夜、夜営の酒の席で、


戦場で助けてやってからやたらと懐いてきた、ジンヤという同じ足軽傭兵の若者と杯を傾けていたタイホウに、突然背後から

「貴様か、『一騎当千』のタイホウとかいう馬鹿者は」

という、完全に喧嘩を売った言葉をかけてきたのがカミナルだった。

ぴたりと、杯を口元へと運ぶ手を止めたタイホウにカミナルは更に、銀の鈴が振るえるような冷涼たる声でこう続けた。

「己の神通力を鼻にかけて無敵だ最強だと触れ回り、勝手な単独行動を繰り返して味方の足並みを乱しているらしいな、クズめ」

向かいで飲んでいたジンヤが、タイホウの顔色を窺って青くなった。

「あァ?」

激怒したタイホウが杯を投げ捨てて振り返った瞬間、


右の眼球ぎりぎりに、小太刀の切っ先が突きつけられていた。


「これで一度死んだぞ」


瞬きすら許されず凍りつくタイホウを、紫に輝く双眸で冷ややかに見据えながらカミナルは鼻で笑った。


「どうした、一騎当千。このまま脳髄まで貫き通してほしいか?」


雪で作った人形の如き白い肌と端麗な美貌も相まって、氷の印象を与える笑みだった。


純白と紫を基調としたコートに身を包んでそこに立っていたのが、思わずタイホウも陶然となる程の見目麗しい若い女であったということと、
これまで他の侍はおろか人外妖怪を相手にしても一度として不覚を取ったことのない己が、この美女に初対面でいきなり命を握られているという現状に、

タイホウは一瞬、眼前の事態が把握できずぼう然とし──


すぐさま、目の前の女に対する烈火の如き怒りがわき起こった。
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